2004年6月22日火曜日

「債務整理マーケット」の悪循環

少し前に掲示板で、簡裁代理権を持つ認定司法書士さんへの債務整理委任についての議論がされたことがある。
司法書士さんというのは、もともと、裁判所に出す訴状を作ったり、土地や会社の登記関係書類を作る専門家だ。
たまに、「どうして借金女王は、司法書士ではなく弁護士に任意整理を依頼したのか」と質問されることがあるが、私にとって司法書士さんというのは、「登記書類を作る人」以外の何者でもなく、司法書士さんと任意整理を結びつけるということは、思いつきもしなかった。
司法書士さんの中にも、債務整理に取り組んでいる人がいることを知ったのは、このサイトを開設して少ししてからのことだ。

簡裁代理制度が出来る前から、一部の司法書士さんは、主に自己破産や個人再生の申立て書類の作成という形で、債務整理に携わっていたが、中には本人の代理となって、債権者と直接和解交渉をする、任意整理を行ってきた方もいるようだ。厳密に言うとこれも、非弁活動になってしまうのかもしれないが、任意整理はもともと私的な話し合いによる解決だから、「ちょっと法律に詳しい近所のおじさんに話をつけてもらう」という感覚で、司法書士さんが任意整理を行っても、債権者側に異存がなければ、構わないと思う。
しかし、簡裁代理権を持って債務整理を行う司法書士さんは、「ちょっと法律に詳しい近所のおじさん」のままでは許されないと思う。
これまで、ずっと弁護士にしか認められていなかった、「代理人」になるということは、とても重いことだと思うのだ。

「代理人」というのは、依頼者の利益を守る人のことだ。
では、債務整理における「依頼者の利益」とは何なのか。
このことについて、少し私の弁護士さんとメールでお話をすることができたので、私の弁護士さんの考えも含めて言うと、債務整理における「代理人」の役割は、

1.依頼人の生活環境や性格なども考慮した上での、適切な債務整理方法の選択
2.申立書類の作成、利息の引き直し計算、裁判、和解交渉
3.完済までの送金と、生活の建て直しの管理・監督

この3つではないかと思う。
この3つのうち、「法律の知識」が役に立つのは、実は2番目の項目だけで、1番と3番については、本当の意味で「依頼者の利益を守る代理人」としての仕事であって、「法律の知識」はそんなに大きなウエイトを占めるわけではない。
私にメールをくださる司法書士さんは、なぜか「弁護士の債務整理費用はぼったくりだ」などと言ってくる人が多いのだが、このような方は、恐らく、「債務整理業務」というのは、上の2番目の項目だけを行えば良い、と思っている人ではないかと思う。
実は2番の項目は、書式や方法がほとんど決まっている「ルーチンワーク」の部分がほとんどだ。(細かい書式の変更や、法律の改正なども結構頻繁にあるようなので、その点は面倒だと思うが)
むしろ手間や時間が掛かり、ひとりひとりに個別のプログラムを作って応対しなければならない、いわば「オーダーメイド」の部分は、1番と3番だ。これがあるから、「債務整理事件は手間の割に儲からない」として、受任を避ける弁護士さんも少なくないのだと思う。
しかし、司法書士さん本来の「書士業」には、1番や3番のような役割はあまり想定されていないと思う。
認定司法書士になるためには、100時間位の研修があるそうだが、その研修の中で、上記の1・3番のようなことを行う重要性が説かれているのかどうか、私にはわからない。
ただ、少なくとも私にメールをくださる司法書士さんは、債務整理を扱うことを「ビジネスチャンス」と捕らえている方が多い印象を受ける。2番の項目だけを「債務整理」だと思っていれば、システマチックに数をこなすことは、そう難しいことではないかもしれない。
権利関係が複雑で、何重にも抵当が入っている土地の分筆作業などをするよりは、遥かに楽な仕事だろう。
だか、1番と3番の仕事を「自分の仕事」だと自覚しないで債務整理を扱う専門家が増えることは、とても憂慮すべき事態だ。

司法書士さんだけを、槍玉に挙げるかのようになってしまったが、弁護士さんの中にも、大勢スタッフを抱えて、債務整理事件に特化しているような人もいる。2番の項目の部分を、徹底的にシステム化して、事務員さんに任せられる部分はお任せして、効率をあげることで、儲からないはずの債務整理事件を、儲かる仕事にしている人たちも少なくない。

また、債務整理を扱うNPOなどの民間団体も多く存在する。債務者本人に自覚を促し、カウンセリングを重視する団体もあるようだが、ただ弁護士を紹介して、紹介料を取るだけとか、弁護士ではなくヤミ金に紹介するような団体もあり、さまざまだ。
こういう団体も含めると、なぜか「債務整理市場」は存在し、ある程度の競争もあるマーケットになってしまっているようだ。
本来、上記1~3番をしっかりこなすつもりなら、儲けを度外視し、ボランティア精神でやらなければならないはずだが、2番だけに特化することで、このマーケットが成り立っているようにしか思えない。
日本は資本主義経済だから、こうした市場でビジネスをする人を、否定することはできないが、その影響は出ているようだ。

私の弁護士さんは、ずっと弁護士会の法律相談窓口で債務整理の相談を受けている。
その弁護士さんのお話によれば、一時期に比べると、相談件数そのものは減少しているが、案件のひとつひとつは悪化傾向にあるそうだ。
自己破産や任意整理の経験がある、いわば「リピーター」がかなり多いらしい。
また、深刻な免責不許可事由を抱えて他の弁護士事務所で受任を拒否された人や、弁護士や司法書士が要求する費用を払うためにヤミ金で借りてしまった人もいると言う。債務整理に特化したような弁護士事務所の中には、費用の分割には応じるものの、本人の支払能力に応じた分割払いではなく、最初からその事務所で決めてある金額での分割にしか応じてくれないところもあるらしい。
このサイトの「資料室」にもあるように、私の弁護士さんは、「弁護士費用のために新たに借りることは絶対にいけません」と書いた注意書を渡してくれるのだが、中には、「費用は借りてでも用意しろ」と言わんばかりの弁護士や司法書士もいるようで、これでは、債務整理をして借金が減るのではなく、増えてしまうことになる。
中でも「リピーター」の存在は、私の弁護士さんも驚くほど多いらしい。あまりにも多いので、そう簡単にどんどん破産させることにも躊躇を感じるようになってきたそうで、以前に比べると、少し厳しくしているそうだ。
もうすぐ新しい破産法ができて、2度目の免責が認められるまでの期間も短くなるし、破産時に最低限必要な生活費として、手元に残せる金額も増えることになる。そうなると、整理する側の自覚とともに、整理業務を受ける専門家にしっかりとした自覚がないと、「リピーター」は増える一方ではないかと思う。

私は何の資格もないので、上記3項目のうち2番目は、専門家とは逆にまったく携わることは出来ない。
このサイトは、「無理なく、確実に返済できる整理方法の選定」と、「整理前の生活を反省した上での、整理後の建て直し」を呼びかけているサイトで、皮肉にも、ビジネスとして債務整理業務を行おうとしている専門家たちが、切り捨てようとしている部分を担っている。
確かに、こんなことをしていても、一文の得にもならない。得にならないどころか、サーバ費用やドメイン管理費用などの出費はあるし、自分の時間の一部も消費している。
それでも辞めずに続けているのは、やはり借金を抱えている人が、本当の意味で立ち直って欲しいからに他ならない。
その場の借金が片付いても、再び「リピーター」として、法律相談所の門を叩くようでは、何の解決にもなっていない。このサイトの読者の中から、「リピーター」だけは絶対に出したくない、と心底思う。
しかし、ルーチンワークに特化して債務整理ビジネスを行う専門家にとっては、「リピーター」はある意味「常連客」であり、その増加も憂慮されるどころか、歓迎されてしまうのかもしれない。債務者本人の更正を無視したビジネス志向の専門家たちが、効率よく債務整理事件をこなせばこなすほど、「リピーター」は増加し、彼らのマーケットは拡大してしまう。
その一方で、ルーチンワークでは処理しきれない、複雑な案件や、どう考えても費用が払えそうもない、どん底の債務者たちが、このマーケットから、弁護士会の相談窓口などに回され、私の弁護士さんのように、ボランティア精神で、債務整理業務を真面目にまっとうしようとする専門家にばかり、負担が掛かかって行くのかもしれない。
認定司法書士さんもこれから更に増えていくし、ロースクールも始まって、弁護士の数も多分、かなり増加するだろう。そうなれば、この悲しい悪循環に、いっそう拍車が掛かる可能性も否めない。
専門家ひとりひとりが、真の「代理人」としての自覚に目覚めてくれることに期待するしかないのだろうか。
そして、このサイトのような個人サイトが、専門家にとっては面倒な部分を担っていくしかないのだろうか。