2006年6月23日金曜日

多重債務問題シンポジウムレポート(3)

2006年6月15日に行われた日弁連主催の多重債務問題シンポジウムの参加レポートの第3回です。第1回はこちら
第2回はこちら

今回のシンポジウムのプログラム中で私が個人的に一番興味を持ったのが、静岡大学経済学科の鳥畑教授による「高金利正当化論を斬る」と題された講演でした。

元多重債務者という立場で多重債務や金利の問題に関心を持つようになった私に、日本の経済や市場の観点からこの問題を考える、という視点が欠落していることはずっと自覚してきたことです。
ましてや、私の経済学の知識レベルは中学で習う「政治経済」のレベルです。
そんな知識レベルでもわかるような、経済や市場の観点からの金利問題を論じている本やサイトをずっと探していたので、今回のプログラムにはとても期待を寄せていました。

ところが、第2回のレポートに書いたように、国会議員の先生方の熱弁のおかげで時間が押してしまい、鳥畑教授のお話はほんの"サワリ"だけで終わってしまいました。
配布された資料の中に、雑誌に寄稿するために鳥畑教授が書いたこの問題についての原稿が入っていて、「後はそれを読んでください」ということになり、ほとんど説明を聞くことができませんでした。

第3回のレポートのアップに時間がかかってしまったのは、中学生レベルの経済学の知識しかない頭で、この鳥畑教授の原稿をなんとか理解しようと格闘していたからです。
なので、理解度も中学生レベルだとは思いますが、私なりに読み取ることができた内容を整理してみます。

さまざまな経済理論を使って、金利引下げの動きに異を唱える人もいます。
貸金業者はもちろんのこと、経済学者や政治家の中にもこのような人たちがいます。
この人たちは、金利引下げを「感情論」と一蹴し、「高金利の方が借り手のためになるのだ」と言っています。
このような人たちは、サラ金の市場を以下のように捉えているようです。

1.サラ金市場においても市場原理は正しく働く

市場原理というのは「物の値段は需要と供給のバランスで決まる」ということです。
貸す側と借りる側の需給バランスによって、金利は自然に決まってくるのだから、法律で規制するようなことではない、と言うのです。

売り手が増えれば価格が下がり、買い手が増えれば価格が上がる株式や為替の市場は、この市場原理の典型ですが、サラ金の市場をこのような市場と同じだと捉えることには無理があります。

正しく市場原理が働き、「適正価格」が本当に「適正に」設定されるためには、需要と供給(債務者とサラ金業者)の情報量・知識レベル・交渉力などが対等でなければなりません。
金利や貸付条件が異なる複数の供給側(サラ金業者)の中から、需要側(債務者)が自分にとって一番適切で有利なものを合理的に選び取ることで「適正」金利が自然と決まる、と言うのが高金利正当化論者が見るサラ金市場です。

しかし、実際に多重債務に陥った人ならすぐにわかると思いますが、サラ金から借りる時には、情報を収集して複数の会社の比較検討を行うような余裕はほとんどありません。
片っ端から融資を申し込み「貸してくれる所から借りる」だけであって、利率は比較したり交渉したりするものではなく、借りた結果として後からついてくる物です。
「金利が高いから借りない」などと言う余裕はありません。
物を買う時に価格比較を行うのと同じようにサラ金の金利比較を行うと考えるのは、非現実的です。

つまり現実のサラ金市場では、金利は需給バランスの中で決められているのではなく、供給側が一方的に定めて需要側に半ば強制的に押し付けているものです。
サラ金の広告は、たいてい幅を持たせた利率表記をしていますが、借り手がその幅の中で自由に利率を選ぶことができるわけではありません。
サラ金側が、勝手に借り手をランク付けして、勝手に利率を決めているのです。

2.上限金利を定めることによってハイリスクの借り手が闇金市場に流れる

上記でサラ金が一方的に利率を決めている、と書きましたが、サラ金側から見れば、これは「リスクに応じた利率設定」ということになります。
借入件数や借入額が大きければ大きいほど、貸し倒れのリスクは高まるわけですから、その分利率を高く設定するのは当然、というわけです。
だから、上限金利を定めてしまうと、それ以上にハイリスクな借り手には貸してあげることができなくなるので、その借り手は闇金に流れる、という理屈です。

市場原理としては当然なのかもしれませんが、債務者の側から見れば、これはどう考えてもおかしな話です。
サラ金から見たハイリスクな借り手とは、大きな金利負担を抱え、返済に窮している人です。そんな人に更に高金利で貸付を行えば、いっそう金利負担が増え、貸し倒れリスクはより高まります。
むしろ、金利負担を少なくしてあげた方が、貸し倒れリスクは低くなるはずです。
企業の投資目的の借入なら、借入元本の調整によって、利率が高くても、実際の金利負担の金額を減らすことができますが、生活費を借金で賄っているような個人債務者に「元本調整」なんて、求める方が間違っています。
借り手の金利負担が減れば、金利返済のための借入は必要なくなるのですから、法外な高金利の闇金市場にまで足を踏み入れる借り手は減るはずなのです。

「金利が下がる=闇金が増える」という発想は、高金利でしか借入ができない「ハイリスクな借り手」が、何もしなくても最初から存在している、という理屈で成り立っていることになります。
実際には「最初からハイリスクな借り手」はほとんど存在しないはずで、本来低リスクな借り手が、サラ金に高い金利と過剰な与信を付与されることによって、「ハイリスクな借り手に転落する」、という側面があることが抜け落ちています。
ですから、闇金市場のニーズを作り出しているのは「リスクの高い借り手」ではなく、「リスクの高い借り手を生み出しているサラ金」だとも言えます。

返済のために借り入れを繰り返し、生活に切羽詰って借り入れをする人が、サラ金業者にとって「ハイリスク」だからと言って、高い金利を課すことは、そのリスクをより高めることになります。
「ご利用は計画的に」「借り入れと返済のバランスを考えましょう」などと広告をしているサラ金業者が、「計画的でないご利用」を促進し、「借り入れと返済のバランスを無視した」金利設定と過剰与信によって、「ハイリスクな借り手」を日々生み出し、闇金融市場に送り出す結果になっています。

以前の記事にも書いたように、サラ金業界は2000年に出資法の上限金利が40.04%から29.2%に引下げされたことにも大変な不満を持っています。
そして、これ以降に闇金被害件数が急増していることを、金利引下げのせいにしています。

本当に上限金利が下がったせいで闇金増えたのでしょうか。

この時期は「痛みを伴う改革」を引提げて小泉首相が登場した時期です。
バブルの煽りを受けて、多額の不良債権を抱えた銀行に、「不良債権処理」という命題が課せられ、そのツケは「貸し渋り」「貸し剥がし」という形で、中小零細事業者や個人へと回ってきました。
銀行の低利な融資で事業を回してきた事業者が、突如融資をストップされてしまえば、例え金利が高かろうが、違法業者であろうが、貸してくれる相手を探さざるを得ません。

銀行融資はほとんど、以前から利息制限法の範囲内で行われており、その利率では問題なくお金を回せていた人たちが、その利率での融資を受けられなくなり、グレーゾーン金利やそれ以上の利率の融資を受けるようになった、と考えられます。
そうなると、出資法の上限金利は確かに下がったかもしれませんが、この時期に実際に融資を受けた人にとっては、実質的には金利の引き上げが行われたも同然だったのではないでしょうか。

こう考えると、「金利の引下げ=違法金利業者の台頭」という理屈は益々怪しいものになります。

このような観点から、鳥畑教授は

サラ金市場に適正な市場原理は働かないので、利率の決定を市場原理に任せるべきではない

と、論じています。

金利の設定は、サラ金市場のいびつな市場原理(需要側と供給側の力関係が極端にアンバラス)に任せるのではなく、借り手の返済能力に見合った設定をするべきであり、これには法規制が必要です。

「高金利正当化論」とは、サラ金業界や、そこから恩恵を受けている人たちが、机上の経済学理論の"オイシイとこ"取りで構築した理論であり、現実のサラ金市場の歪みからは目を背けているのではないかと感じます。

この記事を書くのに、丸2日かかりましたが、中学生レベルの経済学の知識では、この程度が限界です。
自分でも、上手く説明できているとはとても思えません。
これからも勉強して、加筆・修正を重ねて行こうと思っています。

これで、多重債務問題シンポジウムのレポートは終わりです。
すべてを紹介しきれたわけではありませんが、ここで書ききれなかったことは、今後の記事や掲示板でのレスなどに生かして行くつもりです。

●最後に蛇足ですが・・・
このレポートは、「高金利正当化論を斬る」という講演のレポートなので、高金利正当化を唱えるサラ金業者の非だけを挙げていますが、私が「多重債務問題は貸す側が悪い」という考え方に転向したわけではありません。
私は、従来から繰り返し述べているように、「借りる側にも貸す側にも問題点があり、どちらかを一方的に非難すべきではない」と考えています。

2006年6月18日日曜日

多重債務問題シンポジウムレポート(2)

2006年6月15日に行われた日弁連主催の多重債務問題シンポジウムの参加レポートの第2回です。第1回はこちら

元債務者たちの報告の後、来賓の国会議員さんたちからの挨拶がありました。
テレビの討論番組などを見ていてもいつも思うのですが、国会議員さんというのは饒舌です。長い割には特筆すべきような話はなく、金利問題を日銀総裁の村上ファンド投資問題に無理やりこじつけてアピールするような野党議員もいて、ちょっとウンザリしました。
金利問題解決に、国会議員さんの力が欠かせないのはわかりますが、おかげで、後のプログラムが押してしまい、じっくり聞きたかった経済学の先生や宇都宮弁護士の話が大幅に割愛されてしまったのはとても残念です。

その後、金利問題の論点整理と、今の司法・立法・政府の動向の報告が3人の弁護士さんからありました。

日弁連が求めている法改正は以下の4点です。

●出資法の上限金利(29.2%)を利息制限法の制限金利(15~20%)に引き下げる
●貸金業法43条「みなし弁済規定」の撤廃
●日掛け金融等の特例金利の廃止
●脱法的保証料徴求の禁止

アイフルの行政処分をきっかけに、利息制限法と出資法の間にある「グレーゾーン金利」の存在は報道などによって、広く知られるようになりました。
この「グレーゾーン」を撤廃し、金利を一本化することは、ほぼ国会内でもコンセンサスが得られているようです。
問題は、

利率を何パーセントにするのか

というところにあります。

もちろん、日弁連は「出資法を利息制限法にあわせるべき」という見解で、利息制限法そのものも、これだけ低金利の時代になった今、それに見合った引き下げを検討する余地すらある、と考えています。

しかし、以前の記事にも書いたとおり、「利息制限法を出資法にあわせるべき」「両者の間を取って、22~25%ぐらいで決着してはどうか」と考えている人たちも少なくありません。
詳しくは後で書きますが、「そもそも金利の上限を定めることが、規制緩和の流れに逆行している。金利は経済の需給バランスの中で自然に決まるものだ」という主張もあります。

しかし、金利は最高でも利息制限法の制限金利ぐらいまでが妥当なのです。
それ以上の金利では、家計は破綻します。
このシンポジウムに参加して、「収穫だった」と感じたことがいくつかあったのですが、そのひとつが、以下に紹介する数字のデータを教えてもらえたことです。
このデータが「金利は利息制限法の範囲内が妥当」と主張する根拠のひとつになります。

総務省の「全国消費実態調査」によると、家計の平均黒字額(収入から生活費等の支出を引いて手元に残る金額)は、

●年収250~300万円の世帯---19,728円
●年収350~400万円の世帯---26,180円

もちろん、地域や家族構成による差もありますし、節約・倹約に努めている家庭もあれば、湯水のように浪費している家庭もあるでしょうから、いちがいには言えませんが、借金の返済に回せるのは、この「黒字額」の範囲内ということになります。
黒字額を超えた返済をするためには、別の借金をしなくてはなりません。

年収300万円の家庭が、100万円の借金を作ったとします。
利息制限法の制限内であれば、年利は15%ですので、借入1ヵ月後に発生する金利は12,500円です。
従って、上記黒字額の19,728円を返済に回した場合、元金も7,228円返済できることになります。
この調子で毎月19,728円づつ返済すれば、約8年で完済できます。

一方、この借金に出資法上限の29.2%の年利がついている場合は、借入1ヶ月後には24,333円の金利が発生してしまいますので、毎月19,728円の返済では、金利すら払い切れず、利息によって債務額が増えていく一方だということになります。
不足分を補うために、別の借入をしてしまえば、翌月からはその分の金利負担も増えていきますから、このようないわゆる「自転車操業」を始めてしまうと、借金はあっという間に膨れ上がってしまいます。

これが、長年サラ金の借金を抱えている人の「返しても返しても元本が減らない」仕組みです。

よく、「借りたものは、少しづつでも、何年掛かってでも返済すべきではないか」と言う人がいます。
確かにその通りなのですが、それは利息がつかない場合の話であって、高利の借金を負ってしまうと「少しづつ」返しているだけでは「何年かかっても返済できない」ということなのです。

「金利を下げても借りるヤツは借りるのだから、金利を下げても多重債務問題は解決しない」と言う人もいます。
そういう側面も否定はしませんが、上記のシミュレーションの場合、利息制限法以内の利率なら、家計の黒字額分をきちんと返して行けば、新たな借金をすることなく完済が可能です。
同じ年収で、毎月同じ金額を返済していても、利息が高いというだけで、元本を減らすことすらできず、新たな借入をせざるを得ない人も少なからずいるのです。
金利の引き下げによって、少なくともこのような人を多重債務者にせずに済むのです。

全情連(主にサラ金業者が加盟している信用情報機関)の統計によれば、

●サラ金の顧客数--約1586万人
●うち借入件数5件以上(債務額205~292万円)--約229万人
●延滞情報または債務整理情報のある顧客数--約268万人

だそうです。

サラ金に借金がある人のうち約14.5%が、5社以上の会社から借りていることになります。
このうちの何割かは、金利が低ければ2件目、3件目の借入を起こさずに済んでいるはずです。

私自身も含め、多くの多重債務者が多重債務者になった理由は「返済できるかどうか考えもせずに借りられるだけ借りて、浪費し尽くした」からではありません。
「常に返済のことで頭がいっぱいで、返済資金を得るために別の借金をする、収入を全部返済に回し、今日の食事に困って新たな借金をする」ということを繰り返して多重債務者になった人がほとんどです。

返済のための新たな借金の必要をなくすこと

これこそが、多重債務者を減らすために必要なことです。
そのために、金利の引下げが、もっとも有効な手段のひとつだと言えると思います。

次回に続く

2006年6月16日金曜日

多重債務問題シンポジウムレポート(1)

2006年6月15日に行われた日弁連主催の多重債務問題シンポジウムの参加レポートの第1回です。

約2時間半のプログラムで、内容は大きく分けると下記の4点です。

1.元多重債務者などによる体験報告
2.司法・立法・政府の金利問題に対する考え方の確認と動向
3.日弁連や関係団体の多重債務問題・金利問題に対する取り組みの報告
4.経済学的観点から見た金利問題

体験報告では、5人のパネラーが順番にご自身の体験を語ってくれました。

・実際は700万円以上の過払いがあったのに、サラ金の取立てに追われてホームレスになり、病気になってしまった人

・本人の在・不在にかかわらず、職場にも家族にもサラ金から執拗な取り立てが続き、家庭崩壊の危機に直面した人

・仕事だと思って淡々と取り立て業務を行っていたものの、顧客の自殺に遭遇したことから、自分の仕事に疑問を感じ、結局退職した元サラ金支店長

・商売の運転資金の借り入れをきっかけに自転車操業に陥り、ついにはヤミ金にも多額の借金をしてしまったものの、利息制限法のことも過払いのことも何も知らないまま、長年に渡り多額の返済を続けていた人

・母親がサラ金に返済できなくなったことを苦にして自殺してしまったが、取引履歴を開示してみると、すでに過払いが発生していることがわかり、やり切れない思いをした人

こうして文字にしてしまうと「聞いたことのあるような話」で済んでしまうかもしれません。
私も正直なところ「多重債務体験は自分のサイトの掲示板でも、他のサイトや新聞でも十分聞いているから、いまさら体験談なんか聞いても・・・」と思っていました。
しかし、実際にご本人の口から体験を聞くのは、新聞やネットで見聞きしていたのとは比べ物にならないぐらいのインパクトがありました。
私は債権者を加害者よばわりしてパッシングするのは嫌いなのですが、このような体験者の人たちが涙ぐみながら「サラ金は許せません!」「ヤミ金が憎いです!」などと叫ぶのを目の当たりにすると、さすがの私も「ウンウン、絶対許せない說」と怒りが込み上げてきました。

時々私が槍玉に挙げることがある、民商系の多重債務者救済団体のほとんどは、サラ金を徹底的に悪人呼ばわりし、債務者は違法金利であることも知らされずに貸し付けられ、多額の返済を強制されてきた被害者だという主張をしています。
あまりにも極端過ぎて、全然ついていけない論法だと思っていたのですが、毎日毎日このような体験をしている多重債務者の話を生で聞き続けていれば、サラ金に対する怒りがどんどん募るのは当然のことかもしれません。

昨今の報道やネットの普及によって、数年前に比べれば債務整理のこともグレーゾーン金利のことも広く一般にも知られるようになって来ましたが、それでもまだまだ違法金利であることも知らずに、必死になって利息を払い続けている人や、払い切れなくなって自殺までしてしまう人も大勢います。
だから、サラ金の金利は違法だということは、もっともっと広く世間に周知しなくてはなりません。

しかし、だからと言って、

サラ金=加害者/債務者=被害者

という構図ばかりを強調するのも得策だとは思いません。

現実に多重債務者になったことがある人か、ごく身近にいた経験のある人でないとこの構図は理解できないと思います。
多重債務者とは無縁の人が「サラ金は加害者だ」と聞いても、単に自分のだらしなさから負った借金を貸し手のせいにしているだけ、と捕らえる人が大半でしょう。

返しても返してもまったく元金が減らない苦しみとか、執拗な取立てに追い詰められた時の精神状態などは、体験したものでないとなかなかわからないと思います。
私が今回のシンポジウムでの体験談に強いインパクトを感じたのも、彼らの体験には及ばないものの、同じような体験を持っているからこそだったのかもしれません。

このような"被害体験"を外に向かって語ることに意味がないとは思いませんが、こんな"被害者"を出すから、サラ金のやっていることはダメなんだ、サラ金は「加害者」なんだ、という論法では、単なる「感情論」で終わってしまう危険性があります。

淡々と「グレーゾン金利は違法なんだ」「サラ金の高金利では、一般家庭の家計では返済仕切れないのだ」ということを、論理的に説明する方が、様々な立場の人々の理解と同意を得やすいのではないかと思っています。

昨日の報告にも書いたように、今回のシンポジウムには、民間の多重債務者救済団体の人が多く参加していたようです。
元債務者たちの被害報告の時は、会場は立ち見も出るほど満員で、うなずきながら真剣に話を聞いている人がほとんどだったのですが、最後の方の経済学の先生の講演の時には、空席も目立つようになって、アクビをしている人もたくさんいました。
"債務者救済"というボランティア精神は素晴らしいと思いますが、学者さんのような客観的な立場からの話に耳を傾けないのは、いただけません。
感情論だけで、サラ金に敵意をむき出しにするのではなく、こんな問題には関わりも関心もないような人の立場や意見にも耳を傾け、そのような人たちに同調してもらえるような論法を身に付けて欲しいと感じました。

次回へ続く

2006年6月3日土曜日

自己破産を勧める弁護士は「悪徳」か?

1年以上前の話ですが、日経新聞の記者だと名乗る方からメールで取材を受けたことがあります。
その中で、「安易に自己破産を勧めるような悪徳弁護士と良い弁護士の見分け方は?」というような主旨の質問があり、とても驚きました。
日経新聞の記者ともあろう人が、どうして「自己破産を勧める弁護士は悪徳である」という考え方を持ってしまったのか、不思議でなりませんでした。

しかし、借金をテーマにしている個人ブログの中にも、破産を勧める弁護士を悪徳呼ばわりしているブログは結構多いですし、私のサイトの掲示板にも「弁護士に相談をしたら、すぐに破産をすすめられました。こんな弁護士はダメですよね?」というような書き込みが時々あります。

破産を勧める弁護士が、どうしてこんなにも悪徳呼ばわりされるのでしょうか。

債務整理における「悪徳弁護士」の代表格は、「提携弁護士」「整理屋弁護士」と言われる弁護士です。
いずれも、金融業者と繋がっており、「債務整理」と言いながら、実際は提携している金融業者に債務を一本化させ、金融業者と利息収入を山分けしたり、金融業者から紹介手数料を受け取ったりする弁護士です。このため、弁護士が直接債務者から取るお金は、まともな弁護士より少ない場合もあります。中には「相談料・整理費用は無料」だと宣伝し、金融業者からがっぽりマージンを受け取っていることもあります。(債務者は金融業者にがっぽり利息を払うということです)
ですから、「提携弁護士」「整理屋弁護士」は、債務者に自己破産を勧めることはありません。

それでも自己破産を勧める弁護士を「悪徳だ」といっている人は、弁護士の何が「悪い」と言っているのでしょうか。

債務整理に関する知識を多少持っている人が、自己破産を勧める弁護士を悪く言う場合、その理由としてよくあげているのが、
自己破産の方が他の整理方法よりも楽して儲けられる
ということです。

例えばサラ金5社に債務がある人の債務整理をする場合、任意整理だと弁護士が受け取る報酬は、一般的には20数万円です。自己破産だと一般的には30~40万円程度になります。
報酬額が少ないうえに、任意整理では債権者各社と減額や今後の返済方法について交渉をしなくてはなりません。
自己破産では、決まった書式の書類を作って、裁判所に提出するだけです。

だから、自分が楽をするために、簡単に自己破産を勧めているのだ、ということらしいのです。

そういう発想で誰にでも簡単に自己破産を勧める弁護士も中にはいるかもしれません。
でも、そんなに「儲け主義」な弁護士なら、そもそも個人の債務整理の相談なんか受けないと私は思います。
「楽して儲かる」という意味では、債権者側の顧問弁護士をやって、督促状でも送っている方が多分ずっと楽に儲かります。
自己破産の費用を踏み倒す債務者はいるようですが、企業が弁護士費用を踏み倒すことはそう多くないでしょうから、リスクもずっと低いです。

任意整理は個別に交渉するから、手間がかかって大変、というのも確かに正論ですが、多くの債務整理を手がけている弁護士なら、大手サラ金などとの交渉は、何人分かをまとめて行います。
慣れている弁護士であればあるほど、サラ金各社それぞれの債務整理への対応の仕方は熟知していますから、事前に話の持って行き方などの戦略も立てやすく、余程特殊な条件を提示しなければならない時以外は、そんなに大変ではないはずです。
むしろ、自己破産の方が、申し立てる地裁によって、同じ地裁でも担当の裁判官によって、判断が多少異なることがあるようで、申し立てをしてみないと、どんな考え方の裁判官に当たるのかわからない分、上申書などの作成に気を使う部分もあります。

一方、「自己破産を勧める弁護士は悪徳だ」という人が考える、「良い弁護士」とはどんな弁護士でしょうか。
いくつかのブログを読んだり、私の掲示板への書き込みを読むと、こんな「良い弁護士像」が浮かび上がってきます。

・債務者の気持ちを理解してくれる(親身になってくれる)
・債務者の希望通りの整理方法を取ってくれる
・和解までの時間が短い

このような弁護士が、本当に「良い弁護士」なのでしょうか。
あえて、この「良い弁護士像」に反論してみたいと思います。

・債務者の気持ちを理解してくれる(親身になってくれる)

私のサイトの掲示板にも「相談した弁護士が事務的で冷たく、親身になってくれなかった」というような書き込みが時々あります。
このような書き込みに対して、

弁護士は心理カウンセラーではなく、法律の専門家
弁護士への相談は悩み相談室ではなく、法律相談


だと私は返信をします。
弁護士がするべきことは、債務者の債務状況を把握して、客観的なアドバイスをすることです。相談者に感情移入をして、一喜一憂していては仕事になりません。
多くの多重債務者が弁護士相談に行き着くまでに、精神的にかなり疲弊しているのは事実なので、多少言葉を選ぶぐらいの配慮はして欲しい、と私も思いますが、どっぷり感情移入してもらう必要はまったくないと思います。
むしろ、一歩引いた位置から、専門家としての客観的アドバイスを受けることができるのが、法律相談を受ける意義だと考えます。
多くの弁護士は、客観的に債務者の状況を見て、専門家として「自己破産」というアドバイスをしているはずです。
初めて相談に行った債務者が、「簡単に自己破産を勧められた。素っ気無い」と感じてしまうのも理解はできますが、多くの債務者と接して来ている弁護士にとっては、だいだいの債務状況と生活状況がわかれば、どんな整理方法が一番良いかの判断はついてしまいます。

・債務者の希望通りの整理方法を取ってくれる

自己破産をしたくない、と思っている人が、弁護士に自己破産を勧められると、「この弁護士は親身になってくれていない」と感じるかもしれません。
でも、借金は希望や根性だけでは返済できません。
自分なりに、任意整理でも返済可能なプランを立てて相談に行ったのに、「自己破産しかない」と弁護士に言われた、と憤慨する人もいるようですが、自分ひとりで返済プランを立て、完済できるような人なら、そもそも多重債務者になどなりません。
まだ決まってもいないアルバイト収入とか、とても続きそうもない生活費の切り詰め方など、希望や気合だけに基づいた返済プランほど危ないものはありません。
債務整理の返済計画は、今現在の収入と今現在の生活費を基に考えるのが基本です。生活の見直しは必要ですが、債務整理を始めた途端、突然節約上手になるわけではありません。生活の建て直しは徐々に時間をかけてするものです。
どう考えても現実的でない、無理な返済プランだとわかっているのに、「任意整理したい」という希望を受け入れる弁護士が「良い弁護士」だとは、私にはとても思えません。
いかにその返済プランが非現実的なものであるかを説明し、自己破産をして債務を無くし、生活の建て直しだけに専念する道を取るように説得してくれるのが、本当の「良い弁護士」だと私は思います。

・和解までの時間が短い

任意整理の場合、債権者との和解に長い時間を要する場合があります。
それを、弁護士のやる気や能力のなさのせいだと思っている人もいるようです。
私自身は5社の任意整理をしましたが、1社は和解までに数ヶ月かかりましたし、結局和解することなく、5年後に時効を援用して残債をゼロにした会社もあります。
数ヶ月かかった会社は、弁護士さんがわざと和解を遅らせてくれた会社です。
それは、一括返済を提示すると、分割返済交渉をするよりも大幅な減額に応じてくれる会社だということを弁護士さんが知っていたからです。だから、一括返済できるだけのお金が貯まるまで和解を先延ばしにしてくれました。
時効まで引っ張った会社は、取引履歴を一部しか開示して来ませんでした。大きな過払いがあれば、訴訟をすることもできましたが、そこまでは望めなかったので、時効の援用にしました。
時間をかけたことによって、より有利な結果になったわけです。
和解までの時間で弁護士のやる気や能力を測ることはできません。
債権者が提示してきた和解案を、まともに交渉もせずに丸呑みしているからこそ、和解までの時間が短いということもあるのです。

ネットなどでの情報量が増え、債務整理手続きは専門家に委任しなくてもできる簡単な手続きだという認識が高まっています。
「素人でもできる簡単な手続きなのに、高額な費用を取る」と弁護士を批判するブログなども多く見かけます。
ズルズルと借金を抱えて自転車操業しているだけの人が、ちょっと債務整理の知識をかじっただけでわかった気になり、ブログで借金の相談を受けて、とんでもない的外れなアドバイスをしているのも見かけます。

真剣に債務整理に取り組んでいる弁護士さんたちも、随分ナメられたものだと悲しくなります。

その延長線上で「自己破産を勧める弁護士は悪徳」という理屈が生まれてきたのかもしれません。

難易度は低くても、債務整理手続きは「法的」手続きであり、正確な知識を持っていない素人が「気軽に」行うものではありません。マニュアル本には書いていない、イレギュラーな事態が起こった時、弁護士がついていれば上申書1枚で済んだものが、個人で行っているせいで長期間の訴訟に発展してしまい、結局費用も時間も膨大にかかってしまう、ということもあり得ます。

一方、それほど債務整理の知識がない人が「自己破産をすすめる弁護士は悪徳」だと感じるのは、「自己破産」という言葉が持つネガティブなイメージのせいもあると思います。
テレビドラマなどに出てくる「自己破産した人」は、家も仕事も失って路上生活をしていたりしますし、何億円もの借金を作った人が「自己破産だけはしたくないから必死に働いて返済している」というストーリーが過剰なほどの美談として演出されていたりと、マスコミは自己破産者を社会的に抹殺された落伍者のように扱うのが好きです。
私のサイトの掲示板に相談にくる人の中にも、自己破産することを犯罪だと勘違いしているのではないかと思うような人が少なくありません。
そのようなイメージだけで自己破産を捉えてしまっていると、それを勧める弁護士があたかも「自分を奈落の底に突き落とす悪人」に見えてしまうのかもしれません。
しかし、実際は自己破産は社会の落伍者になりかかっている人を救済し、普通の生活ができるようにしてくれる制度です。
自己破産によって、奈落の底から生還できるのです。

多くの弁護士は、ご自身の専門知識や経験に基づいて客観的に判断をし、自己破産が一番良いと思われる時に自己破産を勧めています。
多少の過払いが発生している可能性があったとしても、時間をかけて返還交渉や訴訟をするよりも、一刻も早く債務を無くし、生活の建て直しに専念した方が良い、と判断する場合もあり得ます。
過払い金の返還は、「請求する権利がある」というだけで、「請求しなくてはならない」ものではありません。

債務整理は過払いを取り戻すためのものではなく、あくまでも債務を軽減し、生活を建て直すためのものです。
弁護士は、生活の建て直しにもっとも有利な手段が自己破産だと判断してアドバイスをしてくれているのかもしれません。

自己破産を勧めてきた弁護士をハナから「悪徳」だと決め付けないで、なぜ自己破産が良いのか、納得するまでじっくりと説明してもらってください。
説明してもらっても、まだ納得できなければ、別の弁護士に相談すれば良いと思います。