2006年6月23日金曜日

多重債務問題シンポジウムレポート(3)

2006年6月15日に行われた日弁連主催の多重債務問題シンポジウムの参加レポートの第3回です。第1回はこちら
第2回はこちら

今回のシンポジウムのプログラム中で私が個人的に一番興味を持ったのが、静岡大学経済学科の鳥畑教授による「高金利正当化論を斬る」と題された講演でした。

元多重債務者という立場で多重債務や金利の問題に関心を持つようになった私に、日本の経済や市場の観点からこの問題を考える、という視点が欠落していることはずっと自覚してきたことです。
ましてや、私の経済学の知識レベルは中学で習う「政治経済」のレベルです。
そんな知識レベルでもわかるような、経済や市場の観点からの金利問題を論じている本やサイトをずっと探していたので、今回のプログラムにはとても期待を寄せていました。

ところが、第2回のレポートに書いたように、国会議員の先生方の熱弁のおかげで時間が押してしまい、鳥畑教授のお話はほんの"サワリ"だけで終わってしまいました。
配布された資料の中に、雑誌に寄稿するために鳥畑教授が書いたこの問題についての原稿が入っていて、「後はそれを読んでください」ということになり、ほとんど説明を聞くことができませんでした。

第3回のレポートのアップに時間がかかってしまったのは、中学生レベルの経済学の知識しかない頭で、この鳥畑教授の原稿をなんとか理解しようと格闘していたからです。
なので、理解度も中学生レベルだとは思いますが、私なりに読み取ることができた内容を整理してみます。

さまざまな経済理論を使って、金利引下げの動きに異を唱える人もいます。
貸金業者はもちろんのこと、経済学者や政治家の中にもこのような人たちがいます。
この人たちは、金利引下げを「感情論」と一蹴し、「高金利の方が借り手のためになるのだ」と言っています。
このような人たちは、サラ金の市場を以下のように捉えているようです。

1.サラ金市場においても市場原理は正しく働く

市場原理というのは「物の値段は需要と供給のバランスで決まる」ということです。
貸す側と借りる側の需給バランスによって、金利は自然に決まってくるのだから、法律で規制するようなことではない、と言うのです。

売り手が増えれば価格が下がり、買い手が増えれば価格が上がる株式や為替の市場は、この市場原理の典型ですが、サラ金の市場をこのような市場と同じだと捉えることには無理があります。

正しく市場原理が働き、「適正価格」が本当に「適正に」設定されるためには、需要と供給(債務者とサラ金業者)の情報量・知識レベル・交渉力などが対等でなければなりません。
金利や貸付条件が異なる複数の供給側(サラ金業者)の中から、需要側(債務者)が自分にとって一番適切で有利なものを合理的に選び取ることで「適正」金利が自然と決まる、と言うのが高金利正当化論者が見るサラ金市場です。

しかし、実際に多重債務に陥った人ならすぐにわかると思いますが、サラ金から借りる時には、情報を収集して複数の会社の比較検討を行うような余裕はほとんどありません。
片っ端から融資を申し込み「貸してくれる所から借りる」だけであって、利率は比較したり交渉したりするものではなく、借りた結果として後からついてくる物です。
「金利が高いから借りない」などと言う余裕はありません。
物を買う時に価格比較を行うのと同じようにサラ金の金利比較を行うと考えるのは、非現実的です。

つまり現実のサラ金市場では、金利は需給バランスの中で決められているのではなく、供給側が一方的に定めて需要側に半ば強制的に押し付けているものです。
サラ金の広告は、たいてい幅を持たせた利率表記をしていますが、借り手がその幅の中で自由に利率を選ぶことができるわけではありません。
サラ金側が、勝手に借り手をランク付けして、勝手に利率を決めているのです。

2.上限金利を定めることによってハイリスクの借り手が闇金市場に流れる

上記でサラ金が一方的に利率を決めている、と書きましたが、サラ金側から見れば、これは「リスクに応じた利率設定」ということになります。
借入件数や借入額が大きければ大きいほど、貸し倒れのリスクは高まるわけですから、その分利率を高く設定するのは当然、というわけです。
だから、上限金利を定めてしまうと、それ以上にハイリスクな借り手には貸してあげることができなくなるので、その借り手は闇金に流れる、という理屈です。

市場原理としては当然なのかもしれませんが、債務者の側から見れば、これはどう考えてもおかしな話です。
サラ金から見たハイリスクな借り手とは、大きな金利負担を抱え、返済に窮している人です。そんな人に更に高金利で貸付を行えば、いっそう金利負担が増え、貸し倒れリスクはより高まります。
むしろ、金利負担を少なくしてあげた方が、貸し倒れリスクは低くなるはずです。
企業の投資目的の借入なら、借入元本の調整によって、利率が高くても、実際の金利負担の金額を減らすことができますが、生活費を借金で賄っているような個人債務者に「元本調整」なんて、求める方が間違っています。
借り手の金利負担が減れば、金利返済のための借入は必要なくなるのですから、法外な高金利の闇金市場にまで足を踏み入れる借り手は減るはずなのです。

「金利が下がる=闇金が増える」という発想は、高金利でしか借入ができない「ハイリスクな借り手」が、何もしなくても最初から存在している、という理屈で成り立っていることになります。
実際には「最初からハイリスクな借り手」はほとんど存在しないはずで、本来低リスクな借り手が、サラ金に高い金利と過剰な与信を付与されることによって、「ハイリスクな借り手に転落する」、という側面があることが抜け落ちています。
ですから、闇金市場のニーズを作り出しているのは「リスクの高い借り手」ではなく、「リスクの高い借り手を生み出しているサラ金」だとも言えます。

返済のために借り入れを繰り返し、生活に切羽詰って借り入れをする人が、サラ金業者にとって「ハイリスク」だからと言って、高い金利を課すことは、そのリスクをより高めることになります。
「ご利用は計画的に」「借り入れと返済のバランスを考えましょう」などと広告をしているサラ金業者が、「計画的でないご利用」を促進し、「借り入れと返済のバランスを無視した」金利設定と過剰与信によって、「ハイリスクな借り手」を日々生み出し、闇金融市場に送り出す結果になっています。

以前の記事にも書いたように、サラ金業界は2000年に出資法の上限金利が40.04%から29.2%に引下げされたことにも大変な不満を持っています。
そして、これ以降に闇金被害件数が急増していることを、金利引下げのせいにしています。

本当に上限金利が下がったせいで闇金増えたのでしょうか。

この時期は「痛みを伴う改革」を引提げて小泉首相が登場した時期です。
バブルの煽りを受けて、多額の不良債権を抱えた銀行に、「不良債権処理」という命題が課せられ、そのツケは「貸し渋り」「貸し剥がし」という形で、中小零細事業者や個人へと回ってきました。
銀行の低利な融資で事業を回してきた事業者が、突如融資をストップされてしまえば、例え金利が高かろうが、違法業者であろうが、貸してくれる相手を探さざるを得ません。

銀行融資はほとんど、以前から利息制限法の範囲内で行われており、その利率では問題なくお金を回せていた人たちが、その利率での融資を受けられなくなり、グレーゾーン金利やそれ以上の利率の融資を受けるようになった、と考えられます。
そうなると、出資法の上限金利は確かに下がったかもしれませんが、この時期に実際に融資を受けた人にとっては、実質的には金利の引き上げが行われたも同然だったのではないでしょうか。

こう考えると、「金利の引下げ=違法金利業者の台頭」という理屈は益々怪しいものになります。

このような観点から、鳥畑教授は

サラ金市場に適正な市場原理は働かないので、利率の決定を市場原理に任せるべきではない

と、論じています。

金利の設定は、サラ金市場のいびつな市場原理(需要側と供給側の力関係が極端にアンバラス)に任せるのではなく、借り手の返済能力に見合った設定をするべきであり、これには法規制が必要です。

「高金利正当化論」とは、サラ金業界や、そこから恩恵を受けている人たちが、机上の経済学理論の"オイシイとこ"取りで構築した理論であり、現実のサラ金市場の歪みからは目を背けているのではないかと感じます。

この記事を書くのに、丸2日かかりましたが、中学生レベルの経済学の知識では、この程度が限界です。
自分でも、上手く説明できているとはとても思えません。
これからも勉強して、加筆・修正を重ねて行こうと思っています。

これで、多重債務問題シンポジウムのレポートは終わりです。
すべてを紹介しきれたわけではありませんが、ここで書ききれなかったことは、今後の記事や掲示板でのレスなどに生かして行くつもりです。

●最後に蛇足ですが・・・
このレポートは、「高金利正当化論を斬る」という講演のレポートなので、高金利正当化を唱えるサラ金業者の非だけを挙げていますが、私が「多重債務問題は貸す側が悪い」という考え方に転向したわけではありません。
私は、従来から繰り返し述べているように、「借りる側にも貸す側にも問題点があり、どちらかを一方的に非難すべきではない」と考えています。