2006年6月3日土曜日

自己破産を勧める弁護士は「悪徳」か?

1年以上前の話ですが、日経新聞の記者だと名乗る方からメールで取材を受けたことがあります。
その中で、「安易に自己破産を勧めるような悪徳弁護士と良い弁護士の見分け方は?」というような主旨の質問があり、とても驚きました。
日経新聞の記者ともあろう人が、どうして「自己破産を勧める弁護士は悪徳である」という考え方を持ってしまったのか、不思議でなりませんでした。

しかし、借金をテーマにしている個人ブログの中にも、破産を勧める弁護士を悪徳呼ばわりしているブログは結構多いですし、私のサイトの掲示板にも「弁護士に相談をしたら、すぐに破産をすすめられました。こんな弁護士はダメですよね?」というような書き込みが時々あります。

破産を勧める弁護士が、どうしてこんなにも悪徳呼ばわりされるのでしょうか。

債務整理における「悪徳弁護士」の代表格は、「提携弁護士」「整理屋弁護士」と言われる弁護士です。
いずれも、金融業者と繋がっており、「債務整理」と言いながら、実際は提携している金融業者に債務を一本化させ、金融業者と利息収入を山分けしたり、金融業者から紹介手数料を受け取ったりする弁護士です。このため、弁護士が直接債務者から取るお金は、まともな弁護士より少ない場合もあります。中には「相談料・整理費用は無料」だと宣伝し、金融業者からがっぽりマージンを受け取っていることもあります。(債務者は金融業者にがっぽり利息を払うということです)
ですから、「提携弁護士」「整理屋弁護士」は、債務者に自己破産を勧めることはありません。

それでも自己破産を勧める弁護士を「悪徳だ」といっている人は、弁護士の何が「悪い」と言っているのでしょうか。

債務整理に関する知識を多少持っている人が、自己破産を勧める弁護士を悪く言う場合、その理由としてよくあげているのが、
自己破産の方が他の整理方法よりも楽して儲けられる
ということです。

例えばサラ金5社に債務がある人の債務整理をする場合、任意整理だと弁護士が受け取る報酬は、一般的には20数万円です。自己破産だと一般的には30~40万円程度になります。
報酬額が少ないうえに、任意整理では債権者各社と減額や今後の返済方法について交渉をしなくてはなりません。
自己破産では、決まった書式の書類を作って、裁判所に提出するだけです。

だから、自分が楽をするために、簡単に自己破産を勧めているのだ、ということらしいのです。

そういう発想で誰にでも簡単に自己破産を勧める弁護士も中にはいるかもしれません。
でも、そんなに「儲け主義」な弁護士なら、そもそも個人の債務整理の相談なんか受けないと私は思います。
「楽して儲かる」という意味では、債権者側の顧問弁護士をやって、督促状でも送っている方が多分ずっと楽に儲かります。
自己破産の費用を踏み倒す債務者はいるようですが、企業が弁護士費用を踏み倒すことはそう多くないでしょうから、リスクもずっと低いです。

任意整理は個別に交渉するから、手間がかかって大変、というのも確かに正論ですが、多くの債務整理を手がけている弁護士なら、大手サラ金などとの交渉は、何人分かをまとめて行います。
慣れている弁護士であればあるほど、サラ金各社それぞれの債務整理への対応の仕方は熟知していますから、事前に話の持って行き方などの戦略も立てやすく、余程特殊な条件を提示しなければならない時以外は、そんなに大変ではないはずです。
むしろ、自己破産の方が、申し立てる地裁によって、同じ地裁でも担当の裁判官によって、判断が多少異なることがあるようで、申し立てをしてみないと、どんな考え方の裁判官に当たるのかわからない分、上申書などの作成に気を使う部分もあります。

一方、「自己破産を勧める弁護士は悪徳だ」という人が考える、「良い弁護士」とはどんな弁護士でしょうか。
いくつかのブログを読んだり、私の掲示板への書き込みを読むと、こんな「良い弁護士像」が浮かび上がってきます。

・債務者の気持ちを理解してくれる(親身になってくれる)
・債務者の希望通りの整理方法を取ってくれる
・和解までの時間が短い

このような弁護士が、本当に「良い弁護士」なのでしょうか。
あえて、この「良い弁護士像」に反論してみたいと思います。

・債務者の気持ちを理解してくれる(親身になってくれる)

私のサイトの掲示板にも「相談した弁護士が事務的で冷たく、親身になってくれなかった」というような書き込みが時々あります。
このような書き込みに対して、

弁護士は心理カウンセラーではなく、法律の専門家
弁護士への相談は悩み相談室ではなく、法律相談


だと私は返信をします。
弁護士がするべきことは、債務者の債務状況を把握して、客観的なアドバイスをすることです。相談者に感情移入をして、一喜一憂していては仕事になりません。
多くの多重債務者が弁護士相談に行き着くまでに、精神的にかなり疲弊しているのは事実なので、多少言葉を選ぶぐらいの配慮はして欲しい、と私も思いますが、どっぷり感情移入してもらう必要はまったくないと思います。
むしろ、一歩引いた位置から、専門家としての客観的アドバイスを受けることができるのが、法律相談を受ける意義だと考えます。
多くの弁護士は、客観的に債務者の状況を見て、専門家として「自己破産」というアドバイスをしているはずです。
初めて相談に行った債務者が、「簡単に自己破産を勧められた。素っ気無い」と感じてしまうのも理解はできますが、多くの債務者と接して来ている弁護士にとっては、だいだいの債務状況と生活状況がわかれば、どんな整理方法が一番良いかの判断はついてしまいます。

・債務者の希望通りの整理方法を取ってくれる

自己破産をしたくない、と思っている人が、弁護士に自己破産を勧められると、「この弁護士は親身になってくれていない」と感じるかもしれません。
でも、借金は希望や根性だけでは返済できません。
自分なりに、任意整理でも返済可能なプランを立てて相談に行ったのに、「自己破産しかない」と弁護士に言われた、と憤慨する人もいるようですが、自分ひとりで返済プランを立て、完済できるような人なら、そもそも多重債務者になどなりません。
まだ決まってもいないアルバイト収入とか、とても続きそうもない生活費の切り詰め方など、希望や気合だけに基づいた返済プランほど危ないものはありません。
債務整理の返済計画は、今現在の収入と今現在の生活費を基に考えるのが基本です。生活の見直しは必要ですが、債務整理を始めた途端、突然節約上手になるわけではありません。生活の建て直しは徐々に時間をかけてするものです。
どう考えても現実的でない、無理な返済プランだとわかっているのに、「任意整理したい」という希望を受け入れる弁護士が「良い弁護士」だとは、私にはとても思えません。
いかにその返済プランが非現実的なものであるかを説明し、自己破産をして債務を無くし、生活の建て直しだけに専念する道を取るように説得してくれるのが、本当の「良い弁護士」だと私は思います。

・和解までの時間が短い

任意整理の場合、債権者との和解に長い時間を要する場合があります。
それを、弁護士のやる気や能力のなさのせいだと思っている人もいるようです。
私自身は5社の任意整理をしましたが、1社は和解までに数ヶ月かかりましたし、結局和解することなく、5年後に時効を援用して残債をゼロにした会社もあります。
数ヶ月かかった会社は、弁護士さんがわざと和解を遅らせてくれた会社です。
それは、一括返済を提示すると、分割返済交渉をするよりも大幅な減額に応じてくれる会社だということを弁護士さんが知っていたからです。だから、一括返済できるだけのお金が貯まるまで和解を先延ばしにしてくれました。
時効まで引っ張った会社は、取引履歴を一部しか開示して来ませんでした。大きな過払いがあれば、訴訟をすることもできましたが、そこまでは望めなかったので、時効の援用にしました。
時間をかけたことによって、より有利な結果になったわけです。
和解までの時間で弁護士のやる気や能力を測ることはできません。
債権者が提示してきた和解案を、まともに交渉もせずに丸呑みしているからこそ、和解までの時間が短いということもあるのです。

ネットなどでの情報量が増え、債務整理手続きは専門家に委任しなくてもできる簡単な手続きだという認識が高まっています。
「素人でもできる簡単な手続きなのに、高額な費用を取る」と弁護士を批判するブログなども多く見かけます。
ズルズルと借金を抱えて自転車操業しているだけの人が、ちょっと債務整理の知識をかじっただけでわかった気になり、ブログで借金の相談を受けて、とんでもない的外れなアドバイスをしているのも見かけます。

真剣に債務整理に取り組んでいる弁護士さんたちも、随分ナメられたものだと悲しくなります。

その延長線上で「自己破産を勧める弁護士は悪徳」という理屈が生まれてきたのかもしれません。

難易度は低くても、債務整理手続きは「法的」手続きであり、正確な知識を持っていない素人が「気軽に」行うものではありません。マニュアル本には書いていない、イレギュラーな事態が起こった時、弁護士がついていれば上申書1枚で済んだものが、個人で行っているせいで長期間の訴訟に発展してしまい、結局費用も時間も膨大にかかってしまう、ということもあり得ます。

一方、それほど債務整理の知識がない人が「自己破産をすすめる弁護士は悪徳」だと感じるのは、「自己破産」という言葉が持つネガティブなイメージのせいもあると思います。
テレビドラマなどに出てくる「自己破産した人」は、家も仕事も失って路上生活をしていたりしますし、何億円もの借金を作った人が「自己破産だけはしたくないから必死に働いて返済している」というストーリーが過剰なほどの美談として演出されていたりと、マスコミは自己破産者を社会的に抹殺された落伍者のように扱うのが好きです。
私のサイトの掲示板に相談にくる人の中にも、自己破産することを犯罪だと勘違いしているのではないかと思うような人が少なくありません。
そのようなイメージだけで自己破産を捉えてしまっていると、それを勧める弁護士があたかも「自分を奈落の底に突き落とす悪人」に見えてしまうのかもしれません。
しかし、実際は自己破産は社会の落伍者になりかかっている人を救済し、普通の生活ができるようにしてくれる制度です。
自己破産によって、奈落の底から生還できるのです。

多くの弁護士は、ご自身の専門知識や経験に基づいて客観的に判断をし、自己破産が一番良いと思われる時に自己破産を勧めています。
多少の過払いが発生している可能性があったとしても、時間をかけて返還交渉や訴訟をするよりも、一刻も早く債務を無くし、生活の建て直しに専念した方が良い、と判断する場合もあり得ます。
過払い金の返還は、「請求する権利がある」というだけで、「請求しなくてはならない」ものではありません。

債務整理は過払いを取り戻すためのものではなく、あくまでも債務を軽減し、生活を建て直すためのものです。
弁護士は、生活の建て直しにもっとも有利な手段が自己破産だと判断してアドバイスをしてくれているのかもしれません。

自己破産を勧めてきた弁護士をハナから「悪徳」だと決め付けないで、なぜ自己破産が良いのか、納得するまでじっくりと説明してもらってください。
説明してもらっても、まだ納得できなければ、別の弁護士に相談すれば良いと思います。