2012年3月20日火曜日

「過払い金回収ビジネス」の終わり

1年以上ぶりの更新です。

サイトの開設からもうすぐ13年。
当時はまだ表立って語られることが少なかった、個人の借金問題や債務整理の知識をまとめた私のサイトは開設当初は珍しく、本当に借金に悩む人から興味本位で覗きに来る人まで、たくさんの来訪を受けました。
メディアにも何度か取り上げられました。

その後、次々と類似サイトが開設されました。
弁護士広告も解禁され、専門家もウェブにどんどん参入してきました。
当時「借金」などのワードで検索結果の上位に表示されていた私のサイトの記事もかなりパクられました。
弁護士や司法書士のサイトにもパクられ、弁護士・司法書士を名乗る人から非弁提携のような話を持ちかけられることもありました。

それは、かつて私が"「債務整理マーケット」の悪循環"という記事で懸念を示したように、債務整理が"債務者救済"のためよりも"儲かるビジネス"として急成長して行ったからです。

しかし一昨年あたりから、この「債務整理マーケット」は縮小傾向にあります。
その理由は以下の記事にわかりやすくまとまっているので、ぜひ読んでみてください。

“ポスト過払いバブル”は何でもあり 顕在化する弁護士界の憂鬱な現実|弁護士界の憂鬱 バブルと改革に揺れた10年|ダイヤモンド・オンライン
私が債務整理をした2000年ごろはまだ、過払い金請求は「交渉ごと」でした。
交渉力のある弁護士さんが、債権者と"戦って"取り戻すものでした。
しかし、2006年の最高裁判決を機に、過払い金返還請求に「交渉」も「戦い」も必要なくなりました。
過払い金は請求すれば当然返還されるものとなり、事務処理だけでことが進む「ルーチンワーク」になったのです。
このため、弁護士は名前を出すだけで、実務作業は事務員に任せ、流れ作業のように数多くの債務整理事件をこなす大手の弁護士事務所も乱立しました。
この頃の債務整理事件は、弁護士や司法書士の間で「楽して儲かる」ビジネスとして、大ブームになっていたのだと思います。

地方自治体が税金や社会保険料の滞納者の債務を調査し、債権者に直接過払い金返還を請求して徴収することを検討している、というような記事も、この頃読んだことがあります。(実践したのかどうかは知りませんが)

やがて、景気の低迷とも重なって、もともと体力が弱めの中堅中小のサラ金が倒産したり、買収されたりするようになってきました。
それでも「債務整理マーケット」というより、もはや「過払い金回収ビジネス」となったこの市場の拡大は止まりませんでした。

2006年の最高裁判決の功罪の「罪」の部分は、このような「過払い金回収ビジネス」にお墨付きを与えてしまったことかもしれません。
しかし、「功」の部分もあります。
それが、その後のグレーゾーン金利を撤廃した法改正や総量規制です。

"グレーゾーン"にあった金利を完全に"黒"とみなして返してもらうのが「過払い金回収」であり、「もう"グレー"ではなく"黒"だと最高裁も認めたのだから、"黒い部分"は無くしてしおう」というのが、法改正です。

2010年の法改正を前に、大手サラ金も、クレジットカード会社も2007年頃から貸付金利を当時の利息制限法の規定内に引き下げるようになりました。
この時点で、新たな「過払い金」は発生しなくなりましたが、その分貸金業者の収入も減ることになります。
新たに貸し付ける分の金利を下げても、過去に取った利息の返還請求は続きます。

一時はテレビCMを大量投入し、幼稚園児でも名前を知っていたような大手サラ金業者も、一気に体力を奪われて傾いて行ったのは周知のとおりです。

サラ金は「債務者を食い物にする悪徳業者」のようなレッテルを貼られていますが、「過払い金回収ビジネス」に興じた専門家たちは、そのサラ金を「寄ってたかって食い物にして潰した」と言えなくもありません。

私は専門家ではないので、常に債務者サイドの目線でサイトを運営してきたつもりです。
私自身も過払い金の返還を受けましたが、「債務整理の目的は過払い金を取り戻すことではなく、生活を立て直し、借金の必要が無い生活スタイルを身につけることだ」と一貫して主張してきました。

しかし「過払い金回収ビジネス」がブームになるにつれ、「過払い金を取り戻すことが債務整理の最大のメリットである」というスタンスが専門家サイトでも債務者目線のサイトでも目立つようになって行きました。
その頃から、私のサイトもアクセス数は減り、直帰率が高くなって行きました。
皮肉にも、サイトのトップページに貼ったGoogle AdSence広告には債務整理事件を扱う弁護士・司法書士の広告が次々と表示され、そのクリック報酬だけは増えて行きました。

しかし2009年頃から「過払い金回収ビジネス」はかなり失速してきました。
前述の通り、今後は誰がどれだけ借金をしても新たな過払いは発生しないこと、過去の過払い金も大手サラ金の経営が揺らぐほど回収し尽くしてしまったことなどがその原因です。

そして、今、上述の「ダイヤモンド・オンライン」の記事に書かれているようなことが起こっています。
この記事は「過払い金回収ビジネス」で良い思いをしてきた弁護士・司法書士たちも、そろそろ「次の手」を考えなくては生き残っていけない、という方向に筆が進んでいますが、回収できる過払い金が無くても、借金で首の回らない債務者はまだたくさん存在しており、今後もいなくなることはありません。

金融会社が貸付利率を利息制限法に合わせた後、ここ数年の間に借金を作った債務者は過払い金を抱えていません。
そういう債務者の債務整理事件を扱っても、手間の割に大きな利益になりません。

私が債務整理をした頃は、「債務整理は手間の割にもうからない」として、受任を避ける専門家が多かったそうです。
実際、私がサイトを開設してから最初の2~3年は「受任してくれる弁護士が見つからない」という掲示板への投稿がかなり多かったように記憶しています。
それが、「過払い金回収ビジネス」ブームの到来とともに、ネットでもどこでも「引き受けてくれるところが多過ぎて、どこに頼めばよいのかわからない」という相談に変わって行きました。

ブームが去った今、「儲からなくても債務者のために受任する」というスタンスでブーム以前から債務整理を扱ってきた弁護士さんだけがこのマーケットに残ってくれることは、債務者目線でサイト運営を続けている私にとっては歓迎すべきことです。

上述の「ダイヤモンド・オンライン」の記事にも書かれているような、過払い金請求のルーチンワークしかできず、ろくな交渉能力も持たず、債務者への生活指導もできないような専門家にはさっさとご退場願いたい、と心底思います。

2006年頃から私のサイトは、債務整理マーケットへの多くの専門家の参入に伴い、「一応の役割を終えた」と考えていました。
2008年には相談掲示板も撤去し、大きな更新も一切していません。
しかし、今後、多くの「過払い金回収業者」が撤退して行けば、もう一度、私のサイトにも役割ができてくるのかな、と思うようになってきています。

金利が下がっても、総量規制が設けられても、過払い金回収ビジネスブームが去っても、借金で苦しんでいる人は常に助けを求めてさまよっているのです。